ハイブランド買取物語12 10ctのサファイアリング 置鮎なぎさの場合

置鮎なぎさ(25)は、スマホを握りしめながら震えていた。
後ろから「どうしたの?」と祖母が声をかけてくれる。
なぎさはあまりの衝撃に声が出せなかった。
伝えたいのに、口をぱくぱくさせるだけだ。
こんな……こんなこと、想像してなかった!
どうしたらいいの!?
助けて!おばあちゃん!
おばあちゃんの小さなボックス

なぎさは生粋のおばあちゃん子だ。
共働きで忙しい両親に代わって、愛情を注いで育ててくれたようなものだから。
だから社会人になっても、仕事の休みの日はいつも祖母の家におしかけていた。
広いリビングに寝そべってスマホを操作する。
そんな孫を、嬉しいような、困ったような目で見ているのが祖母である。
「来月ね、友達の結婚式に行くんだ。友達の結婚式なんて初めて!楽しみ〜」
「あら、そうなの。着ていくものとか用意してるの?」
「ワンピース着てヒール履いていくから大丈夫〜」
「…………」
スマホゲームに勤しむなぎさを置いて、祖母はリビングから出て行った。
そして戻ってきた時、手に小さな箱を持っていた。
「なぎさちゃん、これあげるわ。結婚式に着けてお行き」
「え、なになに?」
体を起こして箱の中身を覗き見る。
中には青い宝石のついた指輪が入っていた。
宝石はとても大きく、なぎさがよく行くジュエリーショップでは見たことがないほどだった。
そして、たった今カットされたばかりのように美しく煌めいている。
「わっ!すごいね。これどうしたの?」
「若い頃にね、おじいちゃんからもらったの。でももう着けないから。なぎさちゃんにあげる」
「えっ……あ、ありがとう。嬉しい……」
「あら、気に入らなかった?きっと品質は良いと思うのよ。安物じゃないはずなの」
「それはそうだと思うけど……」
「サファイアだから見劣りしないでしょ」
「サファイアなんだ、これ……」
正直なところ、なぎさは困っていた。
良いものだろうことは一目でわかる。
ただ、大きすぎるのだ。
大きな一粒サファイアは悪目立ちしそうだった。
ついでに言うと、なぎさの趣味にも合わない。
なぎさは小粒の宝石が散りばめられた細めのリングが好きなのだ。
「あの、おばあちゃん、本当に嬉しいんだけど……」
「あら、こういうの好きじゃない?」
「う、うん……」
「じゃあそれ売ってらっしゃい」
「あの、ごめ…………え?」
「売ってきたお金で新しい指輪を買ってあげるから」
「え?いいの?ホントに?ありがとうおばあちゃん!」
驚愕の買取価格

なぎさは指輪を買い取ってくれる店をスマホで探し始めた。
特に重要だったのは、スマホで査定ができることだ。
祖母はあまり遠くまで出歩けない。
スマホで査定ができて、そのまま送ってお金が振り込まれるシステムを導入している店を探した。
5つまで店を絞り込んだら、実際に指輪を撮影して査定を依頼した。
翌日、仕事終わりにスマホを確認すると、各社から査定結果が届いていた。
「え〜と、40万円くらい?なるほどなるほど……ん?いちじゅうひゃくせんまんじゅうまんひゃくまん……
え!?400万円!?」
「どうしたの、そんな大声出して」
「お、おばあちゃ……ゆびわ……よんひゃくまん……」
「あら、そうなの。おじいちゃんたら、頑張ってくれたのね」
「たかすぎ……」
「まあ、そんなものじゃないの?サファイアだし。10カラットだし」
「そ、そんなものなんだ……」
亡き夫をうっとりと思い出す祖母。
自分の年収以上の高値に震える孫。
しかしいつまでも震えていられない。売る先を選ばなければ。
なぎさはまず、査定額が突出して高いところを削除した。
(これは送った後から減額されそうだわ。やめとこ)
さらに返信が粗雑なところも削除した。
(おばあちゃんの思い出のつまった指輪が雑に扱われるなんて耐えられない!)
そうして選び抜いた3社の査定額は同額。
なぎさはその中から、返信がとても丁寧で押し付けがましくないDan-Sha-Ri(ダンシャリ)を選んだ。
楽しい楽しいお買い物

「なぎさちゃん、これなんかどう?」
「なぎさちゃん、こっちは?かわいいと思うの」
「なぎさちゃん、これとこれ、お揃いなんですって。おしゃれねえ」
「もうどれでもいいよ……」
なぎさは祖母と共にジュエリーショップに足を運んでいた。
結婚式のドレスに合わせるアクセサリーを買うため、なのだが、祖母はなぎさ以上にはしゃいでいる。
最初は楽しかったなぎさも、途中からだんだん疲れてきた。
しかし楽しそうな祖母の姿を見るのはイヤではない。
「おばあちゃんが元気でいてくれたら、それでいいよ」
「え?なに?ところで、これはどう?」
祖母との買い物は、まだまだ終わらない。
