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VINTAGE
  • 2025年6月9日

ハイブランド買取物語1 高級腕時計数十本 多田智明の場合

大切なコレクションを紙袋に詰めて

多田智明(仮名)はイライラしていた。
眉間に深く刻まれた皺は、これまで会社で馬車馬のように働き、必死になって家族を養ってきたためだけではない。今まで大切に収集していた高級腕時計のコレクションを手放さなくてはならないためだ

現役時代、会社の同僚に勧められて始めた仮想通貨がその発端だ。
最初は付き合い程度で始めたものだったが、月日と共に値上がりしていくチャートを眺めるうちに、もう少し、もう少しと追加で買い求めた。
ほんの少し前まで、これで末っ子の大学院の学費を賄いながら久しぶりに海外旅行でも、と思っていた。ところがこれが大暴落
慌てて売却したが雀の涙ほどにしかならなかった。損失は膨れ上がり、家族には口が裂けても言えない金額になった。年金があるものの、預貯金は退職直後の半分にも満たない。これでは海外旅行どころか子どもの学費を賄えるかどうかも怪しい。
いずれ嫁にバレるだろうが、その前に少しでも穴埋めをしなければならなかった。そこで泣く泣く自分のコレクションを手放す決意をしたのである。

いま、多田が手に持つ紙袋の中には、これまで多田が買い集め多田と共にいくつもの苦難を乗り越えてきた腕時計が丁寧に詰め込まれている。

高級腕時計との思い出の数々

ロレックスのエクスプローラーⅠは20代で初めて買った高級腕時計だ。若いうちから良いものに触れておこうと、少し、いや、かなり無理をして購入した。
胸を高鳴らせてロレックスの正規店に入店し、丁寧な接客で試着させてもらい、虚勢を張りつつも震える声で「これをください」と絞り出した。退店時にはロレックスの紙袋を手に高揚感でいっぱいになった。
翌日から平日も休日もほぼ毎日身につけ苦楽を共にしてきた。今でも戦友のような存在だ。

30代にはオメガのスピードマスターを購入した。無骨さと繊細さを併せ持つようなデザインに一目惚れしたのだ。
これもやはり毎日のように身につけた。付き合っていた彼女と結婚する運びとなり、この腕時計を着用して相手方のご両親にご挨拶に伺った。多田はガチガチになった。直前までは余裕で構えていたのに、いざご両親を目にするととたんに何も言えない。大きな商談でもこれほど緊張したことはなかった。口火を切ったのは未来の義父だった。
この腕時計に目を止めて、良い時計だね、と褒めてくれたのだ。そこが会話の糸口になり、なんとか「娘さんと結婚させてください」と口にできたのだった。
嫁が妊娠した時は安産祈願を兼ねてタグホイヤーを1本買った。生まれた子が成人したら譲ろうと。

その後も人生の節目にはいつも質の良い腕時計と一緒にいた。子どもの七五三、入園式、大学受験、卒業、内定。それだけではない、家族サービスに勤しむ日も、取引先の接待で酒を注ぐ日も、昇進した日もすべて何らかの高級腕時計を身につけていた。多田にとってこうした腕時計は嫁にも勝らぬとも劣らぬ人生のパートナーであった。給料が上がるにつれて、多田は高級腕時計を買い集めた。機能美もデザイン性も素晴らしい高級腕時計は、心の癒しでありライフステージを上げてくれるものだったのだ

しかし今、多田はその戦友たちを売り飛ばそうとしている。苦虫を噛みつぶしたような顔になるのは当然だ。

向かない足を無理に進める

正直、買取店に持ち込むのは勇気がいった。足を運ぶ人間は金がないと言っているようなものだ。確かに自分はいま金がなくて困っている。しかし他の連中と一緒にされるのは虫が好かない。自分はこれまで会社のため家族のためにしっかり働いてきた人間なのだ、と。

フリマアプリの方が対面せずに済むし高く売れると聞いたので少しやってみたが、写真撮影や文章の作成など面倒なことが多かった売却したい腕時計は数十本に及ぶのだ。1本ずつ出品していては埒があかない。そこで、仕方なく店頭に持ち込んだ。店は「ハイブランドの買取専門店」から探した。これまでの社会経験から、正確性を求めるならその道のプロが最適だと知っていたからだ。

多田は銀座のDan-Sha-Ri(ダンシャリ)を選んだ。銀座で昔の仲間と飲む約束をしていたので、それまでの時間潰しにもなるだろうと考えたのだ。
店舗の前まで来て、ふと買取専門店にいるところを誰かに見られでもしたら嘲笑の対象になるのではないか、そんな思いがよぎった。しかしもう引き返せない。意を決してドアをくぐる。

店舗に入ると丁寧に頭を下げられた。従業員の態度はしっかりしているじゃないかと多少の安心感を覚える。多田は若干イラつきながらも買取の意思を伝えて紙袋を差し出した。鑑定士は紙袋から腕時計を丁寧に取り出し、1つ1つじっくりと観察していた。箱や保証書の類も確認していた。あれば買取額が上がると聞いていたので、押し入れをひっくり返してあるだけすべて持ってきていたのだ。
しかし時間がかかる。多田は貧乏ゆすりを始めた。実際にはさほど時間はかかっていない。数十本もある腕時計を1本ずつ査定するのだから多少の時間がかかることも理解している。それでも、あまり長居したくはない。知り合いに見られたくないからだ。

査定が終わるのを待っている間に、別の客が入店してきた。
話し声からするに、どうやら壮年の夫婦のようだ。終活のために現金になるものをまとめて売りに来たと言う。

このような店に来るのは金に困っている人だけではないのか。
なら、知り合いに見られても大丈夫なのかもしれない。少なくともこの夫婦は恥ずかしそうにはしていない。

多田は少しゆったりした心持ちになった。

思わぬ値段、思わぬ誤算

「お待たせいたしました。査定額は合計でこの金額になります」
鑑定士から提示された金額をまじまじと見つめる。
予想よりも高値がついていた。
使い込んでかなり傷んでいるものもあるしオーバーホールしていないものもある。それでこの金額なら思い出補正込みでも中古としては上等な値段だろう。

「これで」
「かしこまりました」

鑑定士は一度裏に戻ると現金を持ってきた。査定額ぴったりの現金をその場で受け取り、多田は安堵した。これなら嫁にも言い訳ができそうだ。

ふくらんだポケットで、いざ明るい外へ

多田は入った時とは反対に、意気揚々とした気分でドアをくぐった。
予定以上の金が手に入ったのだ。今日は少し良い酒を飲もう。
多田の足取りは軽かった。