ハイブランド買取物語11 アンティークロレックス6263 柏日向の場合
「日向、お前大企業の会社に入社できたんだって?偉いじゃないか」
パチ
「これからだけど……ありがと」
パチ
目を細めて俺、柏日向(22)を見るのは、大好きなじいちゃん。
そして俺が見つめる先には、立派な将棋盤。
う〜ん、この戦局は……
「詰みかも。負けました」
「ありがとうございました」
じいちゃんは駒を片付け始める。
あ〜あ、今日も勝てなかった。じいちゃん強いんだよな。
「じゃ、そろそろ帰るよ」
「そうか。そうしたら、ちょっと待て」
もう靴を履きかけている俺の後ろから、にゅっとじいちゃんの手が伸びた。
「これをやる」
「時計?」
じいちゃんから渡されたのは、ゴツくてカッコいい腕時計。それも2本。
「就職祝いだ」
「マジ?ありがとうじいちゃん!でも、なんで2本?」
「1本は税金用だ。換金しろ」
「どゆこと?」
そこで俺は人生で初めて「贈与税」なるものを知った。
はじめてのハイブランド。はじめての買取

じいちゃんからもらった腕時計のうち1本を売るために、俺は銀座までやってきた。
じいちゃんがくれた腕時計はロレックスらしい。
ブランドなんて知らない俺でも名前だけは知ってる。超有名なハイブランドだ。
「さっさと売って来い。後の事は知り合いに頼んである」
とかなんとか言われたので、仕事終わりに買取専門店まで足を運んだのだ。
Dan-Sha-Ri(ダンシャリ)を選んだのは、ハイブランドの買取専門店だったことと、職場に近い銀座に店舗があること、ロレックスの買取実績が豊富だったことが理由だ。
LINEでも査定できるって聞いたけど、高額なものはやっぱり対面で査定してもらいたいしね。
まだ着られているようなスーツに身を包み、店の前までやってきた。
扉を開ける。
カランという小気味良い音と共に「いらっしゃいませ」と声がかけられた。
「こちらへどうぞ」
案内されるままに落ち着いた店内を移動する。
思ったより広いんだな。
ブースに案内されたので、カバンからじいちゃんのロレックスを出した。
「……ギャランティカードなどはございませんか?」
「え?ええと、他のものはありません」
「左様ですか。失礼しました」
「あの、その、なんとかってカードがあったら、どうなるんですか?」
「ギャランティカードがあれば、買取価格が上がります」
「そうだったんですか……」
今さらじいちゃんにカード持って来いなんて言えない。そもそも持ってるかどうかも怪しいし。
俺が逡巡している間にも査定は進んでいく。
10分もしないうちに査定は終わった。
「とても状態の良いアンティークロレックスですね。買取価格はこちらになります」
店員の手に載せられた電卓には「20,000,000」と表示されていた。
じいちゃんの異変

「俺、その場で失神するかと思ったよ!あんな高価なもの、雑に渡さないでよ!」
「はっはっは、すまんな」
税金のもろもろを終え、今日もまたじいちゃんと一勝負している。
やっぱりじいちゃんは強い。でも。
「……ふむ。負けました」
「やった!初めて勝った!」
「強くなったな」
「いや、俺が強くなったんじゃなくて……」
それ以上は言えなかった。
言っちゃいけないことだった。
それから数日後、じいちゃんはボケ始めて老人ホームに移って行った。
穏やかな日々

じいちゃんはもう俺のことが分からない。
でも、将棋のことは覚えていた。
だから俺は会いに行くたびにじいちゃんと一局打っていく。
ボケたじいちゃんは俺の実力と拮抗しているから、一方的にやられっぱなしだった時よりやりがいがあると言えばある。
「うわ〜、負けました」
「ありがとうございました」
「よし、それじゃまた来るからね」
「ああ、また」
穏やかに笑って手を振るじいちゃん。
俺が誰か分からなくても、対局が楽しかったんだろう。よかった。
「ばいばい、じいちゃん。またね」
じいちゃんにもらったロレックスが、手を上げた俺の袖口から光った。
