ハイブランド買取物語14 エルメス シェーヌダンクル 浅沼由美香の場合

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浅沼由美香(52)は自室のベッドの上で目を覚ました。
白い天井が目に飛び込む。
ゆっくりと頭を動かしダイニングテーブルへ目を移すと、小さなリングがキラリと光った。
夫の理一が置いていった結婚指輪だ。
白い天井が目に飛び込む。
ゆっくりと頭を動かしダイニングテーブルへ目を移すと、小さなリングがキラリと光った。
夫の理一が置いていった結婚指輪だ。
浅沼は20代の頃にネイリストとして独立。今や従業員20名を抱えるネイルサロンのオーナーだ。
若い頃から仕事一筋で頑張ってきた。
そんな時に知り合ったのが夫の理一だった。
理一はネイルメーカーを経営しており、仕事の話からプライベートで付き合うまでに発展し、ついには結婚することに。
お互い仕事のことばかり考えているので、家にいても会話は少ない。
それでも、静かな空間に夫がいてくれると幸福だと思えた。
若い頃から仕事一筋で頑張ってきた。
そんな時に知り合ったのが夫の理一だった。
理一はネイルメーカーを経営しており、仕事の話からプライベートで付き合うまでに発展し、ついには結婚することに。
お互い仕事のことばかり考えているので、家にいても会話は少ない。
それでも、静かな空間に夫がいてくれると幸福だと思えた。
気づかないうちに心が離れていく

不協和音が鳴り出したのは、コロナで自粛を余儀なくされた頃だった。
ネイルサロンの客足は遠のき、浅沼はいつも以上に仕事に没頭した。
どうすれば自粛中でもネイルサロンの売り上げを維持できるか。
そればかり考えて、寂しそうな理一のことなど視界の隅にも入っていなかった。
ネイルサロンの客足は遠のき、浅沼はいつも以上に仕事に没頭した。
どうすれば自粛中でもネイルサロンの売り上げを維持できるか。
そればかり考えて、寂しそうな理一のことなど視界の隅にも入っていなかった。
コロナが収束しネイルサロンも以前同様の売り上げが戻ってきた。
ようやく一息つけたと思った矢先に、夫から離婚の申し出があった。
理由は「僕といてもいなくても君は変わらないから」。
ショックもあった。けれど夫の優しさに甘えきっていたのだという自責の念の方が強い。
浅沼は離婚に応じた。
一緒に住んでいたマンションからは理一が出ていくことになった。
離婚届を二人で提出し、理一の荷物を片付け、マンションから出ていく直前、理一は結婚指輪を置いていった。
「さよなら。君がいつも元気でいることを願ってるよ」
その日30年ぶりに泣いた。
ようやく一息つけたと思った矢先に、夫から離婚の申し出があった。
理由は「僕といてもいなくても君は変わらないから」。
ショックもあった。けれど夫の優しさに甘えきっていたのだという自責の念の方が強い。
浅沼は離婚に応じた。
一緒に住んでいたマンションからは理一が出ていくことになった。
離婚届を二人で提出し、理一の荷物を片付け、マンションから出ていく直前、理一は結婚指輪を置いていった。
「さよなら。君がいつも元気でいることを願ってるよ」
その日30年ぶりに泣いた。
それからは今まで以上に仕事に没頭した。
だが家に帰ればダイニングテーブルの上にはいまだにあの時置かれた結婚指輪が光っている。
離婚して1年が経った頃、浅沼はようやく重い腰を上げることにした。
だが家に帰ればダイニングテーブルの上にはいまだにあの時置かれた結婚指輪が光っている。
離婚して1年が経った頃、浅沼はようやく重い腰を上げることにした。
思い出と共にジュエリーを手放す
浅沼は化粧台の上に置いてある大きなジュエリーボックスを開いた。
中にはダイヤモンドやオパール、ゴールドなどの豪奢なアクセサリーが煌めいている。
浅沼はその中からいくつかを取り出した。理一から結婚前にもらったものだ。
大切に保管していたが、もうデザインが古くて10年以上前からつけていない。
理一ももういなくなった今、これらのアクセサリーを処分しようと決めたのだ。
中にはダイヤモンドやオパール、ゴールドなどの豪奢なアクセサリーが煌めいている。
浅沼はその中からいくつかを取り出した。理一から結婚前にもらったものだ。
大切に保管していたが、もうデザインが古くて10年以上前からつけていない。
理一ももういなくなった今、これらのアクセサリーを処分しようと決めたのだ。
捨てるか親戚の子にあげることも考えた。
けれど、捨てるには惜しいし、あげたところで使えるデザインではない。
どうしようかと考えた末、買取店の査定に出すことに決めた。
けれど、捨てるには惜しいし、あげたところで使えるデザインではない。
どうしようかと考えた末、買取店の査定に出すことに決めた。
眩しい過去の記憶と共に他人の手へ

次の日、浅沼は銀座のDan-Sha-Ri(ダンシャリ)を訪れた。
彼女のネイルサロンがすぐ近くにあり、帰宅途中に寄るのにちょうど良かったからだ。
ドアを開け、落ち着いた雰囲気の店内に入る。
彼女のネイルサロンがすぐ近くにあり、帰宅途中に寄るのにちょうど良かったからだ。
ドアを開け、落ち着いた雰囲気の店内に入る。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
店員に促されるまま奥の個室へと案内された。
小さなテーブルの上に、持ってきたアクセサリーを並べる。
小さなテーブルの上に、持ってきたアクセサリーを並べる。
「拝見します」
目の前の店員は査定を開始した。
その手がシェーヌダンクルのブレスレットに伸びる。
あれは確か、付き合って3年目の記念日に薔薇の花束と一緒にプレゼントしてくれたものだ。
とても気に入ってよく着けていた。
その手がシェーヌダンクルのブレスレットに伸びる。
あれは確か、付き合って3年目の記念日に薔薇の花束と一緒にプレゼントしてくれたものだ。
とても気に入ってよく着けていた。
あれをつけてテーマパークでデートをしたな。
いろんなアトラクションに乗って、派手なショーを見て、お土産にと大きなぬいぐるみを買ってくれた。
その日から1年後にプロポーズされたっけ。
いろんなアトラクションに乗って、派手なショーを見て、お土産にと大きなぬいぐるみを買ってくれた。
その日から1年後にプロポーズされたっけ。
ブレスレットは店員により細部まで確認されている。
デザインは古臭くない。今でも身につけられるだろう。
それでも査定に出したのは、理一との思い出が辛いものになってしまったからだ。
あまりにも煌めいた記憶は、今の私には眩しすぎる。
デザインは古臭くない。今でも身につけられるだろう。
それでも査定に出したのは、理一との思い出が辛いものになってしまったからだ。
あまりにも煌めいた記憶は、今の私には眩しすぎる。
「お客様、どこかお加減が悪いのですか?」
店員が驚いた声を上げる。
知らないうちに涙が頬を伝っていた。
知らないうちに涙が頬を伝っていた。
「いいえ、なんでもないんです。なんでも」
明日に向かって

査定されたアクセサリーはその場ですべて売却した。
中でも高値がついたのはシェーヌダンクルのブレスレットだ。
K18だったこともあり、買取価格は600万円だった。
浅沼は店を出て、自分のネイルサロンに向かった。
中でも高値がついたのはシェーヌダンクルのブレスレットだ。
K18だったこともあり、買取価格は600万円だった。
浅沼は店を出て、自分のネイルサロンに向かった。
「あれっ社長!どうしたんですか?忘れ物ですか?」
声をかけてきたのは店のネイリストだ。
若いけれど技術は本物。とても期待している子だ。
若いけれど技術は本物。とても期待している子だ。
「まあ、そんなところ」
浅沼は腰を下ろしてネイルサロンを眺めた。
清潔感のある店内に、騒がしくなりすぎないBGMがかかっている。
居心地の良い空間だと、掛け値なしに思った。
清潔感のある店内に、騒がしくなりすぎないBGMがかかっている。
居心地の良い空間だと、掛け値なしに思った。
愛する人はいなくなってしまった。けれど私には愛するサロンがある。
私を待ってくれているスタッフもいる。
だから、明日もがんばろう。
私を待ってくれているスタッフもいる。
だから、明日もがんばろう。
浅沼の家に、もう結婚指輪は置かれていない。
